行政書士法改正が示す「見えないリスク」〜慣習がコンプライアンスの死角になる日〜
1. 法改正で再定義された「独占業務」の境界線
近年の行政書士法改正、および行政手続きのデジタル化の進展により、官公署に提出する書類作成が「行政書士の独占業務」であることが改めて鮮明になりました。現在、私たちはこの明確化されたルールの下で、日々の実務を行っています。
ここで、この議論の根幹となる行政書士法第19条の規定を、あらためて全文確認してみましょう。
行政書士法 第19条(業務の制限) 行政書士又は行政書士法人でない者は、他人の依頼を受けいかなる名目によるかを問わず報酬を得て、業として官公署に提出する書類の作成(第1条の3に規定する業務)を行うことができない。ただし、他の法律に別段の定めがある場合及び総務省令で定める定型的かつ容易な手続については、この限りでない。
この条文にある「いかなる名目によるかを問わず」という言葉は非常に重い意味を持ちます。どのような名称であっても、実態として書類作成の対価が含まれていれば、この規定に抵触する恐れがあるからです。
また、ただし書きにある「定型的かつ容易な手続(軽微な事務)」とは、極めて単純な届出等を指します。実地調査を伴う書類作成や、権利の得喪に関わる手続きは、実務上この範囲には含まれないと考えられることが多く、注意が必要です。
もちろん、こうした規定があるからといって、直ちに警察による摘発等が相次ぐとは私は考えていません。現場の実務にはそれぞれの事情があることを誰もが重々承知しているからです。しかし、デジタル化によって手続きの「証跡」が厳格に残る現代、行政が動かなくても、事業者が自ら法的な「攻撃の隙」を背負い込んでしまう可能性を強く含んでいます。
2. 民事上の論点としての「無権代理」リスク
私が民事法務の現場で様々な相談を受ける中、最近特に気になっている「攻め筋」があります。それは、万が一お客様との間で何らかのトラブルが起きてしまった際の話です。
例えば、自動車販売の現場を一例に考えてみましょう。販売店様がサービスとして行っている書類代行。もし、法的知識に長けたお客様との間で、車両の不具合や契約条件を巡る争いが発生した際に、このように指摘されたとしたらどうでしょうか。
「この手続きは、資格のない担当者が行ったものですよね? 法律上の正当な権限に基づかない不適切な代行ではないでしょうか」
※参考:民法における「無権代理」と「追認」 民法第113条(無権代理) 代理権を有しない者が他人の代理人としてした契約は、本人がその追認(あとから認めること)しなければ、本人に対してその効力を生じない。
行政手続きは私法上の契約とは性質が異なりますが、民事上の紛争においては、この「代理権の瑕疵」が契約全体の不備として論点化されるリスクは否定できません。本来、代理権が証明できない申請は、行政庁から「補正」を求められたり、応じなければ「却下」されるべき性質のものです。
「良かれと思って続けてきた慣習」が、ひとたびトラブルになれば、契約の根幹を揺さぶる「アキレス腱」になりかねない。そんな悲しい事態は、なんとしても避けていただきたいのです。 ※もちろん、すべての代行行為が直ちに法的無効に直結するわけではありませんが、争いになった際に攻撃の糸口とされる余地はあります。
3. 歴史が教える「慣習の崩壊」
「今まで大丈夫だったから」という言葉ほど、怖いものはありません。
かつての「過払い金問題」を思い出してください。長年当たり前とされていた金利体系が、法律の解釈によって一挙に覆されました。賃貸の「敷金返還ルール」も、消費者の権利意識の高まりとともに、旧来の特約慣習が通用しなくなった好例です。
これらに共通するのは、行政が動くより先に、「一般の方々が法律を武器にして声を上げる」ことで、業界全体のルールが劇的に変わってしまったという点です。独占業務の規定が世間に広く再認識されている現代において、代行業務も、すでに同じような転換点にあるのかもしれません。
4. まとめ:時代の変化と、リスクの形
これまでは当たり前だった慣習が、時代の変化とともに、思いもよらぬ形で組織の足元をすくう原因になることがあります。デジタル化が進み、誰もが指先一つで専門的な法的知識を得られる今の時代、何気ない日々のフローの中に、予期せぬリスクの種が紛れ込んでいないか。
私たち行政書士も、同じ実務に携わる者として、こうした変化が各業界にとって良い方向へ進むよう、一人の法律専門家として注視していきたいと考えています。

